令和4年度補正「海外需要拡大事業(韓国におけるコンテンツ産業の取組に関する調査事業)」報告書
報告書概要
この報告は、韓国におけるコンテンツ産業の取組について調査した報告書である。日本の少子高齢化と人口減少が進む中、世界の中間層の消費拡大を背景として、クールジャパン政策以来の文化経済領域の産業化が推進されてきたが、韓国の映画・放送コンテンツ制作支援の成功事例を分析し、日本のコンテンツ制作支援検討のための知見を得ることを目的としている。
調査では韓国の坡州市にある制作スタジオを中心に現地調査を実施し、特にCJ ENMスタジオセンターの視察を行った。同スタジオは韓国最大規模のコンテンツ制作施設であり、敷地面積21万平方メートルに13棟のスタジオを有し、最大1600坪のスタジオやLEDバーチャルスタジオなどワンストップ制作環境を実現している。総事業費は2000億ウォンに達し、ソウルから車で40分の立地に位置している。
韓国の制作現場では徹底したデジタル化が進んでおり、スタッフ全員がiPadなどのデジタルデバイスを活用し、クラウドベースでのデータ共有により効率的な制作を実現している。プロダクションデザイナーによると、韓国では週52時間労働制限が厳格に管理され、各チームが監督やプロデューサーに積極的に意見提出する文化があり、専門性に基づく分業が確立されている。
一方、日本の制作現場はアナログ手法が主流であり、デジタル環境が不十分で長時間労働を美徳とする文化が残っている。シナリオ作成における他スタッフの意見表明機会が限られ、個人が発言責任を恐れる傾向があることも課題として指摘された。
分析結果として、日本の実写映像業界には4つの観点が必要であると結論付けている。第一に撮影スタジオの拡充であり、現在日本最大の東宝スタジオでも韓国の最小スタジオに及ばない規模であることから、海外誘致対応可能な大規模スタジオ建設が急務である。第二に様々な段階での金銭的支援であり、韓国では95%の映画作品が政府支援を利用している状況を参考に、プリプロダクションからポストプロダクションまでの各段階での支援拡充が必要である。第三に人材育成であり、韓国では映像業界への就職人気が高く高等教育での映像制作学習者が多いのに対し、日本では学習機会が限られているため、映像制作を学べる高等教育の場の創設と海外留学支援が求められる。第四に実写映像業界の構造改革と労働環境整備であり、韓国の独立系プロダクションがIP保有により利益確保している一方、日本では下請け構造により制作費抑制とクオリティ低下が生じているため、構造転換と労働環境改善が急務である。
