令和2年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業 (過剰生産能力が懸念される産業分野における市場歪曲的な政府支援措置及び国際産業競争力にかかる実態調査)報告書
報告書概要
この報告書は、鉄鋼および半導体産業における過剰生産能力問題と市場歪曲的な政府支援措置について書かれた調査報告書である。現在、G7、G20、WTOなどの国際的な場において公平な競争条件の確立に向けた議論が進められており、特に産業補助金の規律強化について日米欧の貿易大臣が議論を牽引している。市場歪曲的な補助金等の政府支援措置を根源とした過剰生産能力問題は世界的課題として取り上げられており、鉄鋼分野では鉄鋼グローバル・フォーラム、半導体分野ではGAMSなどの国際枠組みで議論がなされている。調査対象として、鉄鋼については中国とインド、半導体については中国と韓国を選定し、上場企業の公開資料を基に財務状況と政府支援動向を分析した。中国の鉄鋼産業では、全調査対象企業の営業利益合計と補助金受給額合計に相関関係があり、営業赤字の補填を目的として政府から補助金が支給されている可能性が高いことが判明した。特に利子補填、VAT補助、輸出補助、低利融資などが市場歪曲的な支援措置である可能性が高いとされている。インドでは輸出促進を目的とした補助金の支給が多く、EPCGスキーム、債務免除、低利融資などが市場歪曲的な支援措置として特定された。中国では2000年代後半から2010年代前半にかけて急速に粗鋼生産能力を拡大し、2014年時点で世界全体の粗鋼生産能力の半分以上を占めるに至ったが、2016年以降は大規模な生産能力削減を実施している。上場企業32社のうち23社が国有企業であり、中国における鉄鋼産業は政府からの優遇支援によって成長してきたことが推察される。こうした調査結果は、多国間での議論の活性化に貢献し、市場歪曲的な政府支援措置を用いる関係国への指摘や是正を促すための重要な基礎資料となっている。