令和2年度産業標準化推進事業委託費(戦略的国際標準化加速事業:ルール形成戦略に係る調査研究(EPCIS普及促進事業))調査報告書
報告書概要
この報告書は、EPCIS(Electronic Product Code Information Services)と呼ばれるサプライチェーン可視化システムの日本における普及促進について書かれた報告書である。令和2年度に経済産業省の戦略的国際標準化加速事業として実施された調査研究の成果をまとめたものであり、みずほ情報総研株式会社が調査を担当している。
EPCISとは、サプライチェーンにおける商品の移動情報をコンピュータ・サーバ上に蓄積し共有するための国際標準仕様である。商品がいつ、どこで、何が、なぜ移動したかという4つの要素(When、Where、What、Why)を用いて情報を表現し、サプライチェーン全体の可視化を実現する。平成30年度には、日本の消費財業界の特性に合わせた「日本版EPCIS」とデータ連携ガイドラインが作成されたが、RFIDの普及が進まず企業間での情報共有も限定的であるため、広く普及していない状況にある。
調査では、国内外におけるEPCISとRFIDの使用状況、関連製品の製造・開発動向、各国政府や業界団体の取り組み実態について詳細な分析を行った。その結果、世界的にはRFID市場が拡大し実用化が進んでいるものの、日本国内では導入が大きく進んでおらず、EPCISの適用も停滞していることが明らかになった。この原因として、企業間データ共有のニーズが総論レベルに留まり具体化されていないこと、物流・流通部門だけでなく経営企画やDX部門といった全体最適を追求する部門の参画が不十分であることが指摘されている。
国際標準化への道筋として、現行システムの効率化から新分野・新機能への展開まで3つの領域を設定し、特にESG対応や社会的責任といった全体最適の観点から普及戦略を構築することを提案している。具体的には、環境保全、労働環境改善、ガバナンス強化などの社会課題解決を目的とした情報システム構築により、サプライチェーン参加者の積極的な関与を促すインセンティブを創出することが重要である。
今後の方策として、実証実験の成果をレポートとして継続的に発信し、EPCIS仕様に精通した有識者による会議体を設置・運営することが必要であると結論付けている。この会議体では、個別最適から全体最適への視点転換を図り、経営企画やDX部門も含めた幅広い議論を展開することで、日本が物流・流通情報のデータ共有分野においてイニシアチブを発揮する基盤を構築することを目指している。
