令和2年度産業経済研究委託事業(経済産業政策・第四次産業革命関係調査事業費(企業の中長期的な企業価値向上に資する役員報酬の課題に関する調査))企業の中長期的な企業価値向上に資する役員報酬の課題に関する調査報告書
報告書概要
この報告は、企業の中長期的な企業価値向上に資する役員報酬の課題について書かれた報告書である。経済産業省による委託調査として、日本企業の株式報酬制度導入における法的・税制・実務上の課題を整理・分析したものである。コーポレートガバナンス改革の一環として、経営陣への適切なインセンティブ付与を通じた「攻めの経営」促進を目的としている。上場企業16社及び専門家4社に対するヒアリング調査と文献調査により、株式報酬制度の現状と課題を把握した。主要な課題として、令和元年会社法改正による無償発行型株式報酬の対象が取締役・執行役に限定され、多くの企業が対象としている執行役員が含まれない点が挙げられている。また、役員報酬の個別開示基準である年額1億円以上という基準に対し、企業は人材獲得競争の観点から疑問を抱いており、基準の見直しが求められている。税制面では、法人税法上の損金算入要件が厳格であり、会計上の取扱いとの不整合が指摘されている。特に事前確定届出給与の届出期間の短さや、業績連動給与における定性評価導入の困難さが課題となっている。非財務指標を活用した役員報酬設計への関心が高まっているが、現行の業績連動給与の損金算入要件では財務指標のみが認められており、ESG投資の増加に対応できていない。社外取締役への株式報酬支給については、監督機能の独立性確保と株主利益との整合性の観点から議論が分かれている。国内機関投資家の多くは反対姿勢を示しているが、海外では地域差がある。国内非居住者に対する株式報酬制度では、対象国の法律・税制調査負担や二重課税回避措置の適用可否が課題となっている。金融法制面では、発行開示規制において株式報酬スキーム間で規制の差異があり、イコールフッティングの観点から見直しが必要とされている。
