令和2年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(EPA締結国・地域における拡張累積等に関する調査)
報告書概要
この報告は、EPA締結国・地域における拡張累積等に関する調査について書かれた報告書である。デロイト トーマツ税理士法人が経済産業省に提出した本調査は、EUにおける拡張累積等の導入実績を詳細に分析し、日本の今後の通商政策への示唆を提供している。
報告書では、EUが締結するFTAにおいて導入されている累積規定を四つの類型に分類している。二国間累積はFTA締約相手国の原産品を自国原産とみなす基本的な規定であり、対角累積は締約国双方がFTAを締結する第三国の原産材料を活用できる制度である。拡張累積はEUがFTAを締結する第三国の原産材料をGSP受益国で加工する際に適用される仕組みであり、地域累積はEU GSP下の地域グループ内での原産材料の相互利用を可能とする規定である。
特にEU-ベトナムFTAにおける対角累積の事例として、ASEAN加盟国原産の水産品と韓国原産の繊維素材に対する適用が詳細に検討されている。これらの制度では、特定の原材料と最終製品が指定され、厳格な行政協力および通知要件が設けられている。原産地規則および原産地証明方法についても、各国間のFTAに基づく統一的な運用が求められている。
日本とEUにおける累積活用事例の分析では、日系企業における累積活用が限定的である現状が明らかとなった。サプライチェーンが複雑な業界では、サプライヤー管理の負担やコンプライアンスリスクを理由に累積を避ける企業が存在する一方、繊維業界等では地域累積や域内累積を戦略的に活用する事例も確認された。EUでは汎欧州・地中海地域特恵原産地規則を中心とした累積概念が広く認識されており、コスト最適化を目的とした戦略的な累積活用が行われている。
今後の課題として、制度設計のみならず、関連企業が効率的にFTAを活用するための仕組み作りが重要であると指摘されている。特に原産性判定や検認時における各国サプライヤーとの円滑なコミュニケーション、ITシステムの導入、機密性を担保した証憑共有プラットフォームの提供等が、累積活用の利便性向上のための有効な手段として提案されている。
