令和2年度産業経済研究委託事業(諸外国の卸電力市場における時間前市場及び先渡市場・先物市場に係る調査)報告書
報告書概要
この報告は、令和2年度産業経済研究委託事業として実施された、欧州諸国の卸電力市場における時間前市場及び先渡市場・先物市場の制度設計と取引状況に関する調査報告書である。欧州では電力市場自由化の進展とともに、国際連系線を活用した市場結合が2000年代中盤から本格化し、前日市場に続いて時間前市場でも統合が進められている。2018年6月からは欧州単一時間前結合(SIDC)プロジェクトの第1段階が開始され、連続約定方式による域内クロスボーダー取引が可能となった。時間前市場では太陽光・風力等の再生可能エネルギーの発電量変動への対応が重要な機能となっており、各国でオークション方式と連続約定方式の組み合わせによる制度設計が行われている。ドイツ、フランス、イギリス、北欧、スペイン、イタリアの主要6地域では、それぞれ異なる市場構造と制度設計を採用しており、市場参加者の入札行動や取引戦略も多様化している。また、時間前市場とインバランス精算制度の関係性では、各国において系統状況や需給逼迫度を反映した価格設定メカニズムが構築されている。先渡市場・先物市場については、電力先物取引所と店頭取引市場が並存し、発電事業者のヘッジ戦略や金融事業者の参入により流動性が向上している。欧州の経験は、日本の電力市場設計において、再生可能エネルギー拡大に対応した時間前市場の機能強化や、リスク管理手段としての先物市場整備の重要性を示唆している。
