令和2年度化学物質安全対策(化管法・化審法に係る化学物質管理高度化推進事業)化学物質の蓄積・濃縮性に関する生物種間差の検証調査報告書
報告書概要
この報告は、化学物質の蓄積・濃縮性に関する生物種間差について書かれた報告書である。日本の化審法では化学物質の蓄積性をコイによる生物濃縮係数(BCF)で判別しているが、コイが水生生物の代表性を持つかという疑問に答えるため、フェナントレン、クリセン、チオベンカルブの3種類の化学物質を用いてコイとヒメダカの蓄積試験を実施した。研究では流水式水槽システムを構築し、OECD TG305に準拠した精密な実験条件下で両魚種への暴露試験を行った。結果として、コイのBCFはヒメダカと比較して5~10倍程度低いことが明らかとなり、これは事前の予想とは逆の結果であった。コイは肝膵臓という特殊な臓器構造を持つため代謝能力が劣り、より高い蓄積性を示すと予測していたが、実際にはヒメダカの方が高い蓄積性を示した。この結果は、現在の化審法におけるコイを基準とした蓄積性評価の妥当性に疑問を投げかけるものである。魚類の生理機能、特に薬物代謝能力、浸透圧調節機構、脂質含量などの種間差が化学物質蓄積性に大きく影響することが示唆された。また、人材育成の観点から、化学物質影響評価分野における若手研究者の不足が深刻な問題として指摘され、大学における実験設備の限界、高額機器の維持管理、長期間を要する実験の困難さなどが課題として挙げられた。今後の研究課題として、コイの蓄積性が多くの水生生物を代表するものかという根本的な問題の解明、蓄積性の魚種間差を生む要因の特定、特に薬物代謝システムの能力差や生息環境による影響の解明が必要である。