令和2年度原子力の利用状況等に関する調査事業(多核種除去設備等処理水の処分技術等に関する調査研究)調査報告書
報告書概要
この報告は、福島第一原子力発電所の多核種除去設備等処理水の処分技術等について書かれた調査報告書である。
本調査は資源エネルギー庁からの委託により株式会社三菱総合研究所が2021年3月に実施したものであり、福島第一原発におけるALPS処理水の長期的な取扱い方法の決定に向けた検討に資する目的で行われた。調査内容は主に5つの分野から構成されている。
第一に、トリチウムの生物濃縮に関する論文調査では、処理水の取扱いに関して示されている懸念で引用される主要な5つの論文について、その要旨を整理し生物濃縮との関係性を分析した。Andrew Turnerらの論文では河口域におけるトリチウムの挙動が調査されたが、生物濃縮の実験は行われていない。Benedict C. Jaeschkeらの論文では植物プランクトンにおけるトリチウムの有機結合型への変換とヨーロッパイガイへの移行が確認されたが、試料数は限定的である。
第二に、炭素14に係る科学的情報として、体内モデルやグローバル循環のコンパートメントモデル、環境放出による線量計算結果等が整理された。炭素14は有機物として生体に取り込まれやすく、トリチウムとは異なる挙動を示すことが明らかにされている。
第三に、世界の原子力施設におけるトリチウム及び炭素14の放出量に関する最新情報が収集整理された。これにより国際的な放出実績の把握が行われている。
第四に、米国スリーマイルアイランド原子力発電所事故後にNRCが設置した会議体について、その意図や法的位置づけが整理された。事故処理における意思決定プロセスの参考情報として調査されている。
第五に、トリチウム分離技術の最新動向について、国内外の研究開発状況が文献調査や関係者ヒアリングにより調査された。日本原子力研究開発機構、栗田工業、韓国原子力研究院等の9事例について技術的進展状況が確認されたが、トリチウム水タスクフォース報告書で「直ちに実用化できる段階にある技術が確認されなかった」と評価された状況を覆すほどの大きな進展は見られていない。これらの調査結果は、福島第一原発のALPS処理水の取扱い方法決定に向けた今後の検討において参考資料として活用されることが期待されている。
