令和4年度化学物質安全対策「大学・公的研究機関と連携した化学物質管理高度化推進事業」酸化エチレンの大気消失過程の速度論的解析と領域大気質モデルによる大気リスク評価 報告書
報告書概要
この報告は、酸化エチレンの大気中における消失過程の速度論的解析と領域大気質モデルによる大気リスク評価について書かれた報告書である。酸化エチレンは化管法が指定する特定第1種指定化学物質であり、合成材料や界面活性剤の原料、医療機関での滅菌剤として利用されるが、発がん性が指摘されており、環境省が定めた指針値よりも高い濃度を示す地点が多く報告されている現状がある。本研究では3つのサブテーマを設定し、まず量子化学計算と遷移状態理論により酸化エチレンの大気化学反応速度定数を算出した結果、塩素原子との反応性が最も高く、次いで水酸化ラジカル、硝酸ラジカルとの反応が続くことを明らかにし、特に沿岸域での優先的消失の可能性を示唆した。また、酸化エチレンの酸化反応により最終的にCH3、CO、HCHO、OHの4種の分子が生成され、これらが大気中のオゾンや二次生成微小粒子状物質への直接的寄与を示すことが判明した。国内における酸化エチレンの排出インベントリ算出では、PRTR届出データに基づき2017年の全国排出量を推計し、領域大気質モデルによる大気濃度評価を実施したが、モデル計算においては初期設定等に課題が残り、今後の改善が必要となった。スモッグチャンバー実験による化学反応追跡については、実験系の構築は完了したものの、設備の設計や納期の遅れにより実際の実験には至らなかった。全球大気質モデルを用いた評価では、酸化エチレンの消失速度は大気汚染物質の人為排出源が多い日本、中国、インド等の陸域で特に大きく、化学反応に起因する全球スケールの大気寿命は約25年と試算された。
