令和4年度化学物質安全対策「大学・公的研究機関と連携した化学物質管理高度化推進事業」消費者製品に含まれる化学物質の経皮曝露を含めた包括的リスク評価スキームの構築調査報告書(公表用)
報告書概要
この報告は、自動車シート中のリン系難燃剤の経皮曝露を含めた包括的リスク評価スキームの構築について書かれた報告書である。従来のリスク評価では経気曝露と経口曝露が主要経路とされてきたが、分子量400程度以下の両親媒性化学物質であるリン系難燃剤は皮膚を透過し血液中に移行することが近年明らかになっている。人体と長時間直接接触する自動車シートなどの消費者製品に含まれる難燃剤において、経皮曝露を考慮する必要性が高まっている。本研究では四つの主要な調査を実施した。まず自動車シート中リン系難燃剤の実態調査では、液体クロマトグラフタンデム型質量分析計を用いた一斉分析法を開発し、実際の自動車シートにおける定性・定量分析を行った。次に人工皮膚を用いた皮膚透過試験では、実際の製品を人工皮膚に直接接触させることで製品からの経皮曝露量を実測し、24時間で塗布量の10-30%が皮膚を透過することが確認された。さらに経皮曝露量推算のためのシミュレーションモデルの構築では、フィックの拡散方程式を基に製品-皮膚間の経皮曝露量推算モデルを開発し、衣服を介した場合の移行量や洗濯による除去性能を評価した。最後に自動車シート中難燃剤の経皮曝露量評価のフィールドテストでは、尿中代謝物測定のための分析法検討と有害性情報収集を行った。リン系難燃剤には発がん性、遺伝毒性、生殖毒性が確認されたものも含まれており、低用量曝露でも健康リスクの懸念が生じる可能性がある。欧米では消費者製品を通じた経皮経路の曝露がリスク評価において考慮されているが、国内の化審法では原則として経口経路及び吸入経路のみが想定されている。今後国内において経皮曝露を考慮したリスク評価の導入を検討するうえで、その寄与を正確に把握し、経皮曝露も含んだ包括的なリスク評価スキームを構築することが重要である。
