令和4年度新興国市場開拓等事業委託費(海外経営判断支援プラットフォーム事業) 調査報告書
報告書概要
この報告は、令和4年度に実施された海外経営判断支援プラットフォーム事業について書かれた調査報告書である。2022年2月のロシアによるウクライナ侵略開始以降、欧米を中心とした国際社会の対露制裁とロシア政府の対抗措置により、ロシアに進出している日本企業の事業環境は深刻な影響を受けている状況が続いている。
この厳しい環境において、企業が取り得る選択肢として5つのシナリオが整理されている。事業継続は食品・日用品小売企業等が人道的理由で採用し、事業縮小は制裁の影響で商材輸入が困難になった卸・小売企業等が選択している。現地法人の売却は取引先である欧米企業の撤退による原材料不足やキャッシュフロー悪化により検討され、休眠化と清算は売却が困難な場合の代替案として並行検討されている。
本事業では、ロシアに進出している日本企業10社に対して、初回ヒアリング、経営判断支援、成果物提供の3段階による支援を実施した。支援対象企業は卸・小売業、メーカー業、ICT業の3業種に分類され、それぞれの業種特性に応じた課題解決支援が行われた。卸・小売業では代替取引先の洗い出しと資金移動手段の比較検討、メーカー業では現地法人売却手続きと清算シナリオの検討支援、ICT業では事業譲渡後の余剰資産処分と税務調査リスクの整理が実施された。
各シナリオの共通課題として、事業継続では資金移動の困難とレピュテーションリスクへの対応、事業縮小では商標権喪失の可能性、現地法人売却では売却先との商標・技術情報の取扱い、休眠化では商標使用の検証と製品保証業務、清算では1年以内の完了義務と時間を要する手続きの両立が挙げられている。支援対象企業への振り返りインタビューでは、ロシアへの渡航困難による現地マネジメントの難化と退職金相場上昇による人員削減交渉の困難が共通課題として確認された。海外企業事例では、欧州企業が2014年のクリミア併合時から対露制裁対応を開始していたのに対し、日本企業は2022年のウクライナ侵略後から本格的な対応を開始した違いが明らかになっている。
