政府統計データを用いた取引実態等調査事業最終報告書
報告書概要
この報告は、中小企業の市場競争状態分析について書かれた報告書である。経済産業省中小企業庁の委託により、政府統計データを用いてハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)による市場競争状態の分析を実施した調査事業の最終報告書である。分析の目的は、中小企業・小規模事業者に対して外部環境分析や事業戦略策定に有用な指標を提供することであり、経済センサス活動調査や企業活動基本調査の個票データからHHIを算出し、産業分類別・地域別に市場の競争状態を明らかにした。さらに帝国データバンクの価格転嫁アンケート調査データを活用し、HHIと価格転嫁状況の関係も検証している。HHIは市場における企業間の競争状態を測る指標であり、完全競争状態では0に近く、独占状態では10,000に近づく特性を持つ。分析結果では、農林漁業、建設業、製造業、卸売業などで数値が2桁台となり、完全競争に近い状態であることが判明した。地域間比較では都市部と地方部で競争状態に差があり、バリューチェーン内での比較により各産業の特徴を明らかにした。価格転嫁分析では、HHIが低い産業ほど価格転嫁が困難な傾向が確認された。インボイス制度導入については、小規模事業者比率が高く HHIが低い産業で取引先変更リスクが高いことが示された。本調査により、中小企業が市場の競争状態を定量的に把握し、価格交渉や市場参入検討など経営戦略策定に活用できる客観的な指標が提供されることとなった。