令和3年度産業技術調査事業 委託研究開発の成果を社会実装につなげる知的財産戦略の実例に関する調査報告書
報告書概要
この報告は、日本の国家研究開発プロジェクト(ナショプロ)から生まれた知的財産を社会実装につなげる戦略について分析した調査報告書である。経済産業省が委託したこの調査では、過去のナショプロにおける社会実装への取り組みを分析し、特許権の活用率向上と研究開発データの有効活用手法を検討している。
調査は公開情報調査と国内19機関へのヒアリング調査の二つの手法で実施された。日本、米国、欧州の委託研究開発における知的財産制度を比較分析し、特に日本版バイ・ドール制度(1999年導入)と米国のバイ・ドール法(1980年制定)の違いを詳細に検証している。米国では政府資金による研究成果の実用化率が低い課題を受けてバイ・ドール法が制定され、研究実施者への特許権帰属により事業化促進を図った歴史がある。
海外事例として、米国国防高等研究計画局(DARPA)の技術投資契約や欧州のHorizon2020プログラムにおける知的財産権とデータの取扱いを調査している。また、日本の各省庁やファンディングエージェンシー(NEDO、JST等)の知的財産権に関する取り決めを整理し、ユーグレナやスタンフォード大学など知的財産権を資金調達につなげた成功事例も分析している。
調査結果から、ナショプロ成果の社会実装における主要課題として、市場環境の変化への対応不足、競合企業間での情報共有不足、エンドユーザーニーズの把握不足などが特定された。これらの課題に対する対応策として、プロジェクト体制へのエンドユーザーや営業部門の参画、中間評価におけるマーケット視点の導入、協調領域と競争領域の明確な整理などが提案されている。最終的に、産業化シナリオを意識した企画立案とマネジメント、公共調達を通じた初期需要創造により、一気通貫の支援実施が必要であると結論づけている。
