令和3年度化学物質安全対策「大学・公的研究機関と連携した化学物質管理高度化推進事業(ライフサイクルアセスメントの視点に基づく化学物質管理のあり方)」調査報告書
報告書概要
この報告は、ライフサイクルアセスメントの視点に基づく化学物質管理のあり方について書かれた報告書である。大阪大学が令和3年度に実施した調査研究では、欧州連合の無毒環境戦略を踏まえ、サプライチェーン全体を見据えた化学物質情報の効率的な伝達スキーム確立と、ライフサイクル全体での環境排出に関する化学的知見の集積を目的とした。研究は主に2つの課題に分けて実施された。課題1では日本の化学物質情報伝達の現状調査とChemical footprint指標の適用可能性調査を行い、特に電気自動車駆動用リチウムイオン電池を対象としたケーススタディを実施した。アンケート調査により事業者の化学物質管理実態と課題を整理し、従来のChemical footprintの問題点を抽出した。また電池材料のマテリアルフロー分析を通じて二次利用による環境負荷削減効果を定量化し、ChFと自然限界係数による環境影響評価手法を確立した。課題2では残留性有機汚染物質の長距離移動性検証と環境中での化学物質の化学種変化について調査を実施した。定常Boxモデルを用いた長距離移動性評価手法を開発し、1分子当たりのホップ数による評価指標を導入した。また環境中に排出されたアンチモンの化学種分析を実施し、ブレーキパッド摩耗による環境への影響を明らかにした。さらにモザンビークでの現地調査により、低所得国におけるプラスチック廃棄物処理の実態と日本製品の影響について調査した。研究成果として、化学物質の長距離移動性を総合的に評価する新たな指標の有効性が確認され、化学種分析による起源推定手法の有用性が示された。今後の課題として、パラメータの不確実性改善、全物質を対象とした詳細解析、現地調査の拡充などが挙げられている。
