令和3年度化学物質安全対策「大学・公的研究機関と連携した化学物質管理高度化推進事業(消費者製品に含まれる化学物質の経皮曝露を含めた包括的リスク評価スキームの構築)」調査報告書

掲載日: 2022年7月1日
委託元: 経済産業省
担当課室: 製造産業局化学物質管理課化学物質リスク評価室
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令和3年度化学物質安全対策「大学・公的研究機関と連携した化学物質管理高度化推進事業(消費者製品に含まれる化学物質の経皮曝露を含めた包括的リスク評価スキームの構築)」調査報告書のサムネイル

報告書概要

この報告は、消費者製品に含まれる化学物質の経皮曝露を含めた包括的リスク評価スキームの構築について書かれた報告書である。

室内に存在する難燃剤は身の回りの製品に高濃度で含有し、部材から容易に拡散・放散することが知られている。既存のリスク評価では経気曝露と経口曝露が主要な曝露経路とされているが、近年、リン系難燃剤のような分子量400程度以下で両親媒性の化学物質が皮膚接触した場合、皮膚を透過し血液中に移行することが報告されている。先行研究では3種類のリン系難燃剤をヒト皮膚サンプルに塗布した結果、24時間で塗布量の10-30%が皮膚を透過したとされている。しかし、対象物質が限定され、実際の製品からの経皮曝露量は測定されていない課題がある。

本研究では、ヒトとの接触面積が多く難燃剤が高濃度含まれている自動車シートを対象として、難燃剤の包括的なリスク評価スキームを構築することを目的とした。研究内容は、自動車シート中リン系難燃剤の実態調査、人工皮膚を用いた皮膚透過試験、経皮曝露量推算のためのシミュレーションモデル構築、及び自動車シート中難燃剤の経皮曝露量評価のフィールドテストから構成される。

実態調査では、テトラヒドロフランを抽出溶媒として採用し、20種類の自動車シートサンプルについて液体クロマトグラフタンデム型質量分析計を用いてリン系難燃剤の定性・定量分析を行った。皮膚透過試験では人工皮膚に自動車シートを直接接触させることで製品からの経皮曝露量を実測し、衣類の影響や自動車シートの違いについても評価した。また、フィックの拡散方程式を基に製品-皮膚間の経皮曝露量推算シミュレーションモデルを構築した。

有害性情報の収集では、国内製品に含まれる可能性があるリン系難燃剤15物質を選定し、人の健康に対する有害性情報を収集した。リン系難燃剤の中には発がん性、遺伝毒性、生殖毒性が確認されたものも含まれており、低用量曝露でも健康リスクの懸念が生じる可能性がある。化審法に基づく優先評価化学物質のリスク評価では経口・吸入経路を想定しているが、欧米では消費者製品を通じた経皮経路曝露もリスク評価で考慮されている。今後、国内において経皮曝露を考慮したリスク評価導入の検討において、その寄与を正確に把握することが必要であり、経皮曝露も含んだ包括的なリスク評価スキーム構築のための研究が重要であると結論づけられている。