令和3年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(諸外国における産業政策の立案と実施に係る最新動向調査事業)報告書
報告書概要
この報告は、COVID-19拡大前から指摘されていた新たな産業政策の必要性に対し、諸外国の産業政策動向、特に「分配」にかかる政策を中心に調査した報告書である。調査対象国として、日本同様に中間層の没落が指摘され経済格差が拡大している欧米4か国(アメリカ、ドイツ、フランス、イギリス)および欧州連合を選出し、政府文献調査と有識者ヒアリングによって現状分析を実施した。
調査結果では、各国ともCOVID-19前と後において政策の方向性自体の大きな変更は見られなかった。しかし、トリクルダウンによる富の再分配を拡大するための企業の国際競争力強化といった従来の産業政策の重要性が相対的に低下しており、より自国民の豊かさを率直に追求し、行き過ぎた資本主義の課題を是正するための政策が拡大・主流化していることが明らかとなった。
国別では、アメリカにおいて政府と民間企業の役割転換が生じ、自由市場経済を介した企業から国民への富の再分配から、政府が国民に対してより直接的に富を再分配する仕組みへと機軸に変化が見られた。イギリスでは、COVID-19よりもむしろEU離脱が産業政策に大きな影響を与え、都市部と地方における経済格差の拡大が最大の社会課題として認識されている。ドイツは調査対象国中最も産業政策の方向性が安定しており、中世から続く人材育成制度や雇用保護策といった歴史的政策を社会変化に合わせて改善する傾向が根付いている。フランスでは、大企業から中小企業への保護政策転換を目指す一方、依然として国内経済・経済安保を支える大企業への依存傾向が見られる。
各国共通のトレンドとして、経済格差等の社会課題是正に対する国の関与が拡大し、複雑化する社会課題に対応するため、分野横断のテーマに対し税・規制緩和・補助金の組み合わせや民間資金活用等、より高度な政策パッケージの運用が図られている。報告書では、我が国産業政策において総点検が求められるテーマとして、分配に係る企業の役割、大規模産業政策における力点の在り方、公平な分配政策と公正な分配政策、デジタルトランスフォーメーションに対する期待値、多様性ある社会における政策実行能力の在り方の5つの論点を提言している。
