令和3年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(中東・北アフリカ地域における経済社会情勢(特に、エネルギー・気候変動情勢)の変化を見据えた対応策の分析)報告書

掲載日: 2022年8月19日
委託元: 経済産業省
担当課室: 通商政策局中東アフリカ課
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令和3年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(中東・北アフリカ地域における経済社会情勢(特に、エネルギー・気候変動情勢)の変化を見据えた対応策の分析)報告書のサムネイル

報告書概要

この報告は、中東・北アフリカ地域における経済社会情勢とエネルギー・気候変動情勢の変化を分析した報告書である。日本エネルギー経済研究所が経済産業省から委託され、2050年までの中東における脱炭素化の行方をシナリオ分析によって検討している。

報告書では、まず中東諸国の現状として新型コロナウイルスの影響を詳述している。中東地域では感染者数が深刻で、トルコが1000万人、イランが600万人を超える累計感染者を記録し、死者数もそれぞれ8万人、13万人を上回った。感染拡大により世界経済が縮小し、石油需要も大幅に減少、2020年4月にはWTI先物がマイナスを記録するなど産油国経済に甚大な影響を与えた。ただし、湾岸産油国やイスラエルなど豊かな国では強力な規制と迅速なワクチン接種により復興への道筋を見出している一方、レバノンやイラクなど財政脆弱国では政府機能不全により国民の不満が高まっている。

米バイデン新政権の中東政策についても分析されている。トランプ前政権の政策を否定し、民主化・人権・環境を重視する姿勢により、サウジアラビアやUAE等湾岸諸国との関係に緊張が生じた。一方、イラン核合意再建への意欲を示すものの、反イランの立場は堅持し協議は難航している。中東をめぐる米中対立も激化しており、中国は一帯一路構想の一環として中東への経済的プレゼンスを拡大している。

中東諸国の脱炭素化に向けた取り組みでは、UAE の2050年ネットゼロ目標をはじめ、各国が新たな時代に適合しようと様々な政策を打ち出していることが報告されている。研究会では専門家による報告とディスカッションが行われ、中東各国の電力政策、モビリティ分野での脱炭素化の動き、COP26におけるGCC諸国のエネルギー動向などについて詳細な検討が加えられた。

2050年を展望するシナリオ作成では、シナリオプランニング手法を用いて2つのシナリオが設定された。シナリオ①は世界レベルで脱炭素化が進展する場合であり、エネルギー需要の変化、経済多角化の必要性、再生可能エネルギー重視のクリーンエネルギー開発が想定されている。シナリオ②は世界レベルで脱炭素化があまり進展しない場合で、天然ガス開発の拡大、石油市場の安定、「ブルー」重視のクリーンエネルギー開発が予想される。

日本へのインプリケーションとして、クリーンエネルギー分野では水素技術における日本の先行者優位を活かした中東との経済協力が期待される。再生可能エネルギーでは両シナリオでも導入が進み、ビジネスチャンスが拡大する可能性がある。従来型産業では、化石燃料に対する需要維持が予想されるシナリオ②において、中東からの輸入がより重要となる。エネルギー安全保障上は、産油・産ガス国の経済多角化失敗による政情不安や、中国の影響力拡大による日本へのエネルギー輸送への影響が懸念されている。