令和3年度産業技術調査事業(「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン【追補版】」の現場課題解決と実効に向けた調査)調査報告書
報告書概要
この報告は、産学官連携による共同研究強化のためのガイドラインの現場課題解決と実効に向けた調査について書かれた報告書である。
経済産業省及び文部科学省は平成28年に「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」を策定し、令和2年に追補版を公表したが、大学側からは共同研究によって創出される「知」が過小評価されており、他大学の取組をどのように参考にすればよいかわからないという声が聞かれる。一方、産業界側は「知」の価値がよくわからず、成功事例を把握していないという課題がある。特に地方大学や中小企業において、新たな研究や事業のネタ、資金が限られており、産学連携に対する人的・知的リソースも不足しがちで深刻な課題となっている。
本調査では、ガイドライン追補版の作成や普及を通して顕著となってきた産学官連携のより具体的な課題や整理すべき事項を深堀し、各大学や企業での実効性を高めることを目的とする。そのため、ガイドラインから抽出した課題を再整理し、対応する処方箋や事例を紐づけ、汎用性のあるツール等で可視化を工夫した。また、大学ファクトブック2022年版を作成し、ガイドラインの実行状況を見える化した。
コンテンツの整理・可視化については、2016年ガイドライン及び追補版の内容から「課題」を抜き出し、対応する「処方箋」を文中から収集してExcel形式で整理した。処方箋の内容をまとめ、キーワードを付与し、関連するFAQの内容や事例、新たにヒアリングした実務者からのコメントを補足として紐づけた。整理したコンテンツをデータベースとし、Excel上に検索ツールを作成し、ダイアログによって知りたいコンテンツを絞っていく「対話型検索」と、キーワードリストから該当コンテンツを取り出す「キーワード検索」を用意した。
実務者ヒアリングによれば、これまでのガイドラインでは産学連携の意義や価値についての記述が薄く、産学連携推進のための具体的な制度設計、組織の機能、担当者の役割などへの言及が十分でないことが示唆された。調査結果を踏まえて産学官連携の推進に向けた大学運営のあり方を考察すると、経営層が産学連携の意義を明確にし、それに従う制度設計や組織運営を進めていくとともに、産学連携担当者や共同研究に携わる教員が産学連携の必要性や理想形について丁寧に説明し、対話を重ねて学内における意識や理解の共有を進めることが重要である。
