令和3年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(サプライチェーン強靱化に資するデータ共有標準・モデル契約及び地域大原則策定調査)事業報告書
報告書概要
この報告は、サプライチェーン強靭化とデータ共有によるサプライチェーンマネジメント(SCM)の変革について書かれた報告書である。
COVID-19を含むサプライチェーンリスクの多様化と複雑性の増大により、企業には従来の直接取引先に限定された管理から脱却し、上流・下流を巻き込んだデータ連携型SCMの実現が求められている。特に日本企業と経済関係の深いインド太平洋諸国を含むエコシステム構築が重要となっている。
調査では、データ共有の必要性、ユースケース、ガバナンス・ルール、実現方策の4つの観点から検討が行われた。サプライチェーンを取り巻く事業環境の変動として、グローバル経済の大規模変動、消費者ニーズの多様化、サプライチェーンリスクの高まり、新たな社会価値の台頭が挙げられ、これらによりサプライチェーン全体の複雑化・不安定化が進行している。
企業ヒアリングから特定された27のユースケースのうち、サプライヤ構造の可視化、カーボンフットプリントの可視化、人権・環境対応の可視化が特に緊急性が高いテーマとして浮上した。これらは、COVID-19によるサプライヤリスクの顕在化、脱炭素要求の高まり、環境・コンプライアンス規制の厳格化を背景としている。
データ共有のガバナンス・ルールについては、International Data Space Association(IDSA)の枠組みを参考に、利用原則・ポリシー、実運用ルール、法務契約の多層的なアプローチが必要であることが示された。ただし、日本やアジア地域での適用には、個人情報保護法制、産業構造、デジタル成熟度を考慮したカスタマイズが求められる。
実現に向けては、民間企業単独での取り組みには限界があり、政府や業界団体による支援が不可欠である。特に海外サプライヤや中小企業におけるデータ取得の困難さが課題となっている。今後は企業主体のユースケース実証と政府・業界団体による基盤・ルール整備を連動させ、日豪印の政策関係者との協議を通じてアジア域内でのサプライチェーン強靭化原則の精緻化を進める方針である。