令和3年度地球温暖化・資源循環対策等に資する調査委託費(国境調整措置に係る調査)調査報告書
報告書概要
この報告は、国境調整措置(炭素国境調整措置)について書かれた報告書である。欧州連合(EU)が2021年7月に世界初の炭素国境調整措置(CBAM)の制度案を公表したことを受け、その詳細な内容と国際的な動向を分析している。EU提案では、2023年から製品排出量の報告義務を開始し、2026年からCBAM証書の購入義務を課すものである。対象商品には鉄鋼、セメント、アルミ、肥料、輸入電力が指定され、証書価格は欧州排出量取引制度と連動させる仕組みとなっている。また、CBAM収入がEUの独自財源として2030年時点で21億ユーロと推計され、コロナ対応の復興基金にも充当される予定である。米国では、明示的炭素価格を持たない規制措置による国境調整措置について議論が進められ、政府調達による製品基準の制定や通商拡大法232条を通じた対策が検討されている。さらに、米欧は2021年10月に鉄鋼・アルミ製品への関税撤廃合意の中でglobal arrangementの設立を宣言し、2023年までに方法論を決定することが盛り込まれた。ドイツのショルツ首相は気候クラブを提案し、グリーン水素の共通認識形成を重視している。一方、ロシア、中国、インド、ブラジル、南アフリカなどの新興国は、CBAMがWTOルールに違反し、差別的で一方的な貿易障壁であると強く批判している。日本からEUへの対象製品の直接輸出量は微少であるため、直接的な影響は小さいとされているが、この先例のない制度が貿易秩序に混乱を与える可能性が指摘されている。
