令和3年度産業経済研究委託事業(人的資本投資の実態把握等に関する調査)報告書
報告書概要
この報告書は、日本企業における人的資本投資の実態把握と測定・開示促進について分析した2022年の経済産業省委託調査報告書である。
近年、企業における人的資本経営の重要性が高まっているが、日本企業では人的資本投資について適切なPDCAサイクルが回されておらず、短期的な業績管理の調整弁として扱われ、戦略的な投資決定や資本市場・労働市場への適切な情報開示が十分に行われていない現状がある。本調査では、国内企業に対するアンケート・ヒアリング調査、有識者ヒアリング、先行研究調査、国内外のベストプラクティス企業調査を実施し、人的資本投資を「人材獲得」「人材育成」「人材保持・活用」「人的資本基盤」の4つに区分して整理した。
海外企業の開示事例では、多くの企業が統合報告書やサステナビリティ・レポートにおいて、「価値向上」と「リスクマネジメント」の2つの観点から情報開示を行っている。価値向上の観点では研修費用や給与等の支出金額を把握して開示し、リスクマネジメントの観点では従業員属性割合や現地採用比率等の指標を採用している企業が多い。
日本企業の調査結果では、ほぼすべての企業が人的資本投資の重要性を認識しているものの、具体的にどの項目を投資と捉えるかについては企業間や企業内での定義が統一されていない。人材育成費については多くの企業で管理されているが、事業部での独自実施分は集約されていない場合が多い。人的資本投資の測定・分析については、定義や共通認識が図られていない中で、投資全体としての測定や投資対効果の定量的分析に至っていない企業が大半である。
現状の情報開示では、多くの企業が可能な範囲からデータを開示している段階にあり、リスクマネジメントの観点が強い項目の方が開示されやすい傾向にある。価値向上の観点から自社の人的資本投資についてストーリーに沿って説明することは容易ではなく、各社とも模索段階にある。
報告書では、人的資本投資の測定・開示促進に向けて、経営戦略と連動した投資の考え方の理解促進、共通指標の設定、会計システム上の工夫が必要であると提言している。特に、企業価値向上につながる「人材育成費」を最低限開示すべき項目として位置づけ、項目ごとの費用総額把握から取り組むべきであるとしている。
