令和元年度原子力の利用状況等に関する調査(原子力利用におけるリスク情報活用等の状況に関する調査事業)
報告書概要
この報告は、令和元年度に実施された原子力利用におけるリスク情報活用等の状況に関する調査事業について書かれた報告書である。
本調査は、経済産業省から委託を受けた日本エネルギー経済研究所が、世界各国の原子力利用に関する議論の動向やリスク情報活用の状況を包括的に分析したものである。報告書は大きく三つの章で構成されており、第一章では各国における原子力利用に関する議論の動向を、第二章ではリスク情報活用等に関する各国動向を、第三章では原子力安全に係る産業団体の各国動向を詳細に検討している。
アメリカにおいては、エネルギー省が電力市場と信頼性に関する調査を実施し、ベースロード電源としての原子力の重要性を再認識している。天然ガス価格の低下や再生可能エネルギーの導入拡大により、従来型電源である石炭火力と原子力発電所の収益性が悪化し、早期閉鎖のリスクが高まっている状況が明らかとなった。これに対して、電力系統の信頼性とレジリエンス確保の観点から、原子力を含む多様な電源の維持が不可欠であることが示されている。
イギリスでは、2050年の排出削減目標達成に向けて原子力が重要な役割を担うという認識のもと、長期的な原子力戦略が策定されている。新設炉の確実な建設、既設炉の運転期間延長、小型モジュール炉などの新技術開発という三つの戦略的優先事項が設定され、これらの実現には研究開発、技能開発、国際協力が重要な施策として位置づけられている。
国際エネルギー機関による分析では、持続可能な開発シナリオにおいて原子力が果たす役割の重要性が強調されており、原子力発電量の削減は炭素排出量の増加と電力系統コストの上昇をもたらすことが定量的に示されている。また、原子力発電は他の低炭素電源と比較して安定した電力供給能力を有し、系統の信頼性向上に大きく貢献することが確認されている。
リスク情報活用の観点では、アメリカとイギリスにおける安全目標の設定とリスク情報の活用状況を比較分析している。両国とも確率論的安全評価を規制に積極的に活用しており、定量的な安全目標を設定して原子力施設の安全性向上を図っている。これらの取組みは国際原子力機関の安全基準とも整合性を保ちながら発展している。
産業団体については、アメリカの原子力エネルギー協会、原子力発電運転協会、世界原子力発電事業者協会、電力研究所などの活動を詳細に調査し、産業界による自主的な安全性向上の仕組みを分析している。これらの組織は、規制当局との連携を図りながら、技術開発、人材育成、安全文化の醸成に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
