令和元年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(英国のEU離脱に向けた現地進出日系企業への影響調査)報告書

掲載日: 2020年8月19日
委託元: 経済産業省
担当課室: 通商政策局欧州課
委託事業者: 日本機械輸出組合
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令和元年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(英国のEU離脱に向けた現地進出日系企業への影響調査)報告書のサムネイル

報告書概要

この報告は、英国のEU離脱に向けた現地進出日系企業への影響について調査した報告書である。英国のEU離脱については、メイ首相時代の離脱協定を巡る混乱から、ボリス・ジョンソン首相による新たな離脱協定の合意、そして2019年12月の総選挙での保守党大勝を経て、2020年1月31日に正式離脱が実現された。

離脱協定では、2020年12月31日までの移行期間が設定され、この期間中は英国にEU法が引き続き適用される。北アイルランド問題については、移行期間終了後に北アイルランドのみEU規制を適用し、英国本土とアイルランド島間の海上に事実上の国境を設けることで解決が図られた。英国は移行期間の延長をしない方針を明確にしており、EUとの将来協定交渉が本格化している。

ジョンソン首相は、EUとの将来関係についてEUカナダFTAに似た自由貿易協定を目指すとしているが、双方が鋭く対立する論点も存在する。特に同一競争条件の確保、漁業権、金融サービスにおける市場アクセスが主要な争点となっている。EUは英国に対し政府補助金や競争政策において広範な同一競争条件を求めているが、英国は独自ルールの導入を指向している。

漁業問題では、英国がノルウェーやアイスランドと同様に毎年交渉することを望む一方、EUは現状維持を求めており、双方の立場は真っ向から対立している。金融分野では、英国が規制の恒久的な同等性評価に基づく市場アクセスを求めているが、EUは英国の金融業に対してEUルールへの従属を求めている。

将来協定なき離脱の場合、関税賦課や通関手続きの復活により、製造業を中心とした日系企業に深刻な影響が予想される。特に自動車産業では、部品調達から完成車輸出まで複雑なサプライチェーンが形成されており、関税や原産地規則の変更が大きな打撃となる可能性がある。食品産業では衛生基準の相違により輸出入が困難になる懸念があり、化学産業でも規制の分岐により認証取得の複雑化が予想される。

日本企業の短期的対応としては、在庫の積み増しやサプライチェーンの見直し、認証取得地の変更などが挙げられる。中長期的には、生産地の見直しや規制環境の変化への対応、労働力確保の課題に直面することが予想される。英国は長年日本にとって欧州市場へのゲートウェーの役割を果たしてきたが、離脱後はこの位置付けが変わらざるを得ない状況となっている。