令和元年度産業経済研究委託事業(経済産業政策・第四次産業革命関係調査事業(諸外国の電力取引における不正取引の監視手法や監視体制に係る調査))報告書
報告書概要
この報告は、諸外国の電力取引における不正取引の監視手法や監視体制について書かれた報告書である。
EU卸電力取引においては、エネルギー市場の健全性と透明性を確保するためREMIT(卸エネルギー市場の健全性及び透明性に関する規則)が制定されており、インサイダー取引の禁止、内部情報開示義務、相場操縦の禁止などを規定している。市場濫用行為は主に7種類に分類され、インサイダー取引、内部情報の不適切な開示、内部情報に基づく推奨といったインサイダー取引関連と、虚偹又は誤解を招くシグナルを与える取引、価格操作、仮装的な策略を伴う取引、虚偽情報の流布といった相場操縦関連に区分される。ACERと各国規制当局が協力して市場監視を実施し、違反の疑いがある事案に対して強制執行措置を講じる体制が整備されている。
各国レベルでは、イギリスではOfgem、ドイツではBNetzA、フランスではCRE、ベルギーではCREGがそれぞれ規制当局として機能している。これらの規制当局は独自の監視手法と執行権限を有し、REMIT違反に対する調査や制裁措置を実施している。
米国においては、連邦エネルギー規制委員会FERCが卸電力市場における不正取引の規制・監視を担当している。市場濫用防止に関する規制体系として、連邦電力法第206条に基づく「公正で合理的でない料金」の規制や、第222条に基づく相場操縦禁止規定が設けられている。また、地域送電機関RTOや独立系統運用機関ISOが各地域において具体的な市場監視業務を実施している体制となっている。
相場操縦事例として、偽装取引、送電容量の占有、多層注文といった手法が確認されており、これらに対してACERは具体的な適用指針を策定している。また、卸電力取引所における入札規則についても、市場結合の進展や入札価格設定の適正性を巡る議論が継続的に行われている状況である。
