令和元年度エネルギー需給構造高度化対策に関する調査等事業 (世界のエネルギー関連企業の気候変動問題への対応に関する情報開示動向等調査) 調査報告書

掲載日: 2021年8月25日
委託元: 経済産業省
担当課室: 資源エネルギー庁長官官房総務課調査広報室
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報告書概要

この報告は、世界のエネルギー関連企業の気候変動問題への対応に関する情報開示動向等について書かれた報告書である。

調査では欧米の電力企業、石油・ガス企業、鉱業企業20社を対象とし、パリ協定採択や責任投資原則の拡大、TCFD提言公表といった国際的な動きの中で企業の戦略や開示状況を分析している。欧州では2030年にGHG排出量40%以上削減、2050年ネット・ゼロを目標とし、EU-ETSやサステナブル・ファイナンスを推進している一方、米国は国レベルでの目標が不透明で州によって取組に差異が見られる。

欧州電力企業は、EUの気候変動政策を踏まえて2050年までのカーボン・ニュートラルやネット・ゼロを掲げる企業が多く、事業や電源構成を比較的大きく転換しつつある。Enel、Iberdrola、EDF、EnBWはTCFD提言に対応したセクションを設けており、石炭火力発電を段階的に閉鎖したり再生可能エネルギーへの投資計画を示している。RWE以外の企業では気候変動関連の株主提案や訴訟はほとんど確認されず、格付や株価の低下は主に電力価格低下が理由である。

米国電力企業は、国全体の目標や方向性がない中で各社の状況に応じた対応をしている。電源構成中の石炭割合が約3割のDuke Energyは2019年に2050年ネット・ゼロ目標を設定したが、既に低炭素化が進んでいるNextEra EnergyやExelonでは長期的な目標は示されていない。低炭素化があまり進んでいない企業では気候変動関連の株主提案もあり開示が進められているが、格付や株価と気候変動対応との関連性は確認されなかった。

石油・ガス企業は、2014年後半以降の油価低下による業績低迷の中で生き残り戦略を模索している。欧州系メジャーズはガスビジネスへのシフトを強化し発電事業にも積極的に展開している一方、米国系メジャーズはシェールガス・オイル開発に注力している。TCFD提言に沿った気候変動関連情報の開示を積極的に進めており、自社独自の長期的エネルギーシナリオを策定してIEA SDSとの比較により気候変動シナリオに対する自社資産ポートフォリオのレジリエンスを分析している。しかし座礁資産リスクについては限定的であるという見解を示している。

全体として、気候変動が事業において特に重要な課題となる石油・ガス企業や石炭火力発電が多い電力企業に対しては投資家のプレッシャーが相対的に大きく、前者は既にシナリオ分析・開示を進めており、後者は新たに長期目標を設定し気候関連の開示を進める動きがある。しかし格付での考慮は限定的で株価には顕著な影響は見られないものの、投資家や金融機関が投融資先企業に気候変動への対応を求める動きは拡大しており、実際の投融資判断において考慮され企業への資金の流れを決める一要因になってきていると考えられる。