令和5年度産業経済研究委託事業(エンゲージメントを通じた企業価値向上に関する調査)調査報告書
報告書概要
この報告書は、エンゲージメントを通じた企業価値向上に関する日米欧の比較調査について書かれた報告書である。
エンゲージメントについて、国連責任投資原則では明確な定義を設けており、業績予想モデル作成のためのヒアリングや対話を伴わない発表等は真のエンゲージメントではないとされている。スチュワードシップ活動のエスカレーションとして、エンゲージメント、議決権行使、訴訟、ダイベストメントの4段階が示されている。
日米欧の制度比較では、英国のみが各原則の適用義務付けであるが、他地域はプリンシプルベースとなっている。日本のスチュワードシップ・コードは英国をモデルに策定されたものの、協働エンゲージメントやエスカレーションの記載が欠如している。
実態比較において、日本の投資家によるエンゲージメントは取材に留まることが多く、定義が不明確との企業側の意見が確認された。米欧の投資家がより建設的なエンゲージメントを行っているという評価もあった。日本では証券会社による仲介が多いのに対し、米欧の投資家は直接面談を申し入れ、事前に目的を明確に伝えている。
差異の原因として、米欧のアセットオーナーがエンゲージメントや議決権行使を自前で実施するのに対し、日本のGPIFは法律により外部委託している点が挙げられる。また、日本では証券会社による仲介やエンゲージメント定義の曖昧さから、目的が不明確であるとの企業側の指摘がある。
課題として、アセットオーナー、アセットマネージャー、企業それぞれにおいて経営と運用のプロフェッショナル人材の不足や多様化の遅れが確認された。日本の課題の本質には銀行ガバナンス、役員報酬、プロ経営者・投資家の専門性の3つの観点があり、これらの改善により株価を意識した経営への転換が期待される。
