令和5年度重要技術管理体制強化事業成果報告書我が国におけるX線CTを用いたCPE体制構築可能性調査公表用
報告書概要
この報告は、日本におけるX線CTを用いたサイバー・フィジカル・エンジニアリング(CPE)体制構築の可能性について調査した技術研究報告書である。サイバー・フィジカル・エンジニアリング技術研究組合が令和5年度に実施した重要技術管理体制強化事業において、中国製電気自動車NIO ES8およびEC6を対象として、X線CTによる非破壊計測技術とリバースエンジニアリング手法の実証研究を行った。
研究では、フラウンホーファーEZRTの超大型X線CT装置を用いて車両全体の3次元計測を実施し、得られた288GBの膨大なデータから部品形状と配置情報の抽出を試みた。光学スキャナーとの比較検証により計測精度の評価を行い、材料分析による個別部品の機械特性と物性計測を実施した。さらに、取得データを基にしたCAEモデル化による衝突解析とEMC解析を行い、シミュレーション技術の検証を行った。
技術的成果として、X線CTデータによる材料別セグメンテーションは密度差のある材料については可能であるものの、同一素材の部品レベルでの分離は困難であることが判明した。ボディ・イン・ホワイト(BiW)の抽出についても、ノイズの影響と解像度不足により境界面抽出が困難で、CAEモデル作成に適用可能なレベルのデータ化は実現できなかった。一方で、光学スキャンデータを活用したCAE用中立面メッシュの作成は成功し、材料特性変更による性能向上推定が可能であることを実証した。
技術課題として、X線CTデータの巨大サイズとノイズ除去技術、境界抽出技術の不足が挙げられる。超大型XCTによるマクロ情報とマイクロXCTによるミクロ情報を統合的に扱うためのデータフォーマット規格化の必要性も明らかとなった。現時点では技術的制約によりCAEへの展開は限定的であるが、デジタルツインによる価値創出ポテンシャルは大きいと評価されている。
安全保障上の観点から、X線CT技術により製品の形状情報と材料情報の秘匿は困難であるため、製造業は情報漏洩を前提とした開発・生産手法への転換が必要である。欧州のデジタル認証制度への対応も視野に入れ、国として超大型X線CTを中心とする計測装置群とデータプラットフォームの整備を急ぎ進める必要があると結論している。
