令和5年度化学物質規制対策「大学・公的研究機関と連携した化学物質管理高度化推進事業(ライフサイクルアセスメントの視点に基づく化学物質管理のあり方)」調査報告書

掲載日: 2024年11月8日
委託元: 経済産業省
担当課室: 製造産業局化学物質管理課化学物質リスク評価室
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令和5年度化学物質規制対策「大学・公的研究機関と連携した化学物質管理高度化推進事業(ライフサイクルアセスメントの視点に基づく化学物質管理のあり方)」調査報告書のサムネイル

報告書概要

この報告は、化学物質のライフサイクル全体を通じた管理のあり方について書かれた報告書である。

近年の国際的な化学物質管理において、国連環境計画によるポスト SAICM(国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ)では、ライフサイクル全体を通じた化学物質管理や有害性情報公開のあり方が議論されている。本事業では、持続可能な社会実現のため、再生可能エネルギー導入による化学物質由来のリスクトレードオフの評価と、国境を超えた消費・廃棄段階の化学物質リスク評価を実施し、化学物質のライフサイクルを踏まえたリスク低減のための科学的知見蓄積を目的とした。

課題1では、日本における2050年脱炭素化目標に向けた再生可能エネルギー導入において、太陽光発電と風力発電による地球規模での温室効果ガス削減効果以外の、地域的ライフサイクルでの排出物質や廃棄物由来リスクを評価した。Asia-Pacific Integrated Modelが策定した日本の将来シナリオを基に2100年までの風力・太陽光設備量を予測し、風力はブレード廃棄物処理時の温室効果ガス排出量、太陽光はライフサイクルでの温室効果ガス・化学物質排出を定量評価した。再生可能エネルギー導入による低炭素化とライフサイクルでのリスクのトレードオフを分析し、包括的な再エネ導入リスクを明らかにした。

課題2-1では、残留性有機汚染物質による世界規模汚染の影響評価を実施した。日本から排出された長距離移動性の大きな有機汚染物質が、どの程度遠方まで移動し国外のどの地域にどれだけの汚染をもたらすかを、詳細な空間分解能を持つ多媒体環境動態予測モデルG-CIEMSを用いてシミュレーションした。PCB異性体群等を対象とし、排出インベントリを作成して長距離移動性の定量的指標を提案した。課題2-2では、マーシャル諸島マジュロ環礁を対象に、近年の輸入工業製品の放置等による重金属汚染調査と表層堆積物由来重金属の様々な曝露経路でのヒト健康影響リスク評価を行った。

結果として、再生可能エネルギー導入においては低炭素効果とライフサイクルリスクのトレードオフが定量化され、有機汚染物質では日本からの域外到達割合が推定された。マジュロ環礁では人為的起源の重金属汚染が確認され、特定の地点でヒト健康影響リスクが懸念される値を示した。これらの知見は、化学物質のライフサイクル管理における政策決定や国際的な化学物質管理の進展に寄与する重要な科学的根拠となるものである。