令和5年度産業経済研究委託事業(我が国のスタートアップのファイナンス環境の在り方に関する調査) 調査報告書
報告書概要
この報告は、我が国のスタートアップのファイナンス環境の在り方について書かれた報告書である。経済産業省が野村総合研究所に委託した令和5年度産業経済研究委託事業の調査結果をまとめたものであり、スタートアップ育成5か年計画で掲げられた2027年度に10兆円規模の投資を目指すという目標の実現に向け、資金供給拡大のための課題と施策について検討している。
調査では、資金供給者として機関投資家、政府系ファンド、事業法人、個人投資家、海外投資家の現状を分析し、資金仲介者としてベンチャーキャピタル、プライベートエクイティファンド、金融機関による資金供給の実態を調査している。機関投資家については、近年オルタナティブ資産への投資が拡大しているものの、主な投資対象は不動産であり、ベンチャーキャピタルやプライベートエクイティファンドへの資金供給は拡大途上である。政府系ファンドは数兆円規模の投融資を実施し、特に産業投資を原資とした官民ファンドがスタートアップへの出資を行っている。
事業法人のコーポレートベンチャーキャピタルによる投資は増加傾向にあるが、世界と比較すると規模が小さく、投資件数や投資金額が少ない状況である。個人投資家については、少額募集や投資型クラウドファンディングなど制度整備が進んでいるものの、企業の負担が重く活用実績は年間1件未満となっている。海外投資家からの投資金額は増加傾向にあるが、さらなる拡大には株式の流動性向上が必要である。
資金仲介者では、国内ベンチャーキャピタルのファンド規模やチケットサイズが米国と比較して小さく、レイター期への投資額が少ない課題がある。業界成長にはリスクマネー供給と投資家育成が必要であり、政策的後押しが重要である。ベンチャーデット市場は拡大傾向にあり、約6割のスタートアップ企業が運転資金確保を目的として活用している。市場制度については、東証グロース市場と海外のスタートアップ向け市場との上場要件比較を通じて、制度面での課題が検討されている。
