令和5年度国内における温室効果ガス排出削減・吸収量認証制度の実施委託費(カーボンプライシングと脱炭素投資の関係性に関する調査)成果報告書
報告書概要
この報告は、カーボンプライシング制度と脱炭素投資の関係性について書かれた報告書である。
カーボンプライシング制度の導入効果について、EUの排出量取引制度(EU-ETS)を中心とした実証分析とシミュレーション分析を実施している。EUでは制度導入により一定の排出削減効果が確認されたものの、既存の炭素価格水準では目標とする削減には不十分であると評価されている。企業レベルでのミクロデータ分析では、対象企業群において1割から3割程度の排出削減効果があったとする研究も存在する。
環境規制による企業行動変容については、アナウンスメント効果に注目した分析を行っている。自動車排ガス規制では、規制強化の答申発表から実施までの間に、関連する研究開発費が伸長することが確認された。また、インターナルカーボンプライシング(ICP)の活用において、炭素価格制度を実施している国・地域では企業のICP設定が有意に促進されるとの分析結果が示されている。
企業の脱炭素投資判断においては、事業性評価とリソース確保が重要な要素である。将来の炭素価格水準について、中期的には化石燃料賦課金が数千円程度、排出量取引制度の有償オークションが数千円から1万円前後と推計されている。企業が脱炭素投資を実行する条件として、脱炭素な生産活動の収益性が既存活動を上回るか、既存活動の費用が脱炭素活動を上回ることが必要である。
政策提言として、企業の投資促進には将来の炭素価格見通しや排出枠の目安を明確にすることが重要であり、アナウンスメント効果を活用した制度設計の必要性を指摘している。