令和5年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(国内外における繊維産業の環境及び繊維資源の循環利用に関する調査)調査報告書
報告書概要
この報告は、繊維産業における環境配慮と資源循環利用に関する国内外の動向調査について書かれた報告書である。
繊維産業は世界第2位の環境汚染産業とされており、特に欧州地域ではサステナビリティに関するルール整備が急速に進展している。2023年にはエコデザイン規則の改正により未使用繊維商品の原則廃棄禁止が盛り込まれ、循環可能な資源戦略やグリーンウォッシュ規制が採択されるなど、繊維産業を取り巻く環境が大きく変化している。日本の繊維産業は98%以上の衣料品を輸入に依存しており、海外展開が成長に欠かせない中で、これらの環境変化への対応が急務となっている。
調査では14項目にわたる詳細な分析を実施した。EUの持続可能な繊維循環戦略に基づく政策形成過程では、1970年代からの環境政策の蓄積を背景に、関係者との協議を重ねながら実効性の高い制度を構築していることが明らかとなった。企業の対応状況については、省エネルギーや安全性、水資源への配慮は各社共通で取り組まれている一方、包装資材の抑制や洗濯時の繊維くず発生抑制は注力度が低い傾向がみられた。
グリーンウォッシュ対策では、欧州委員会の調査で環境主張の53.3%が誤認を招くものと評価され、日本の現行法では対応が不十分である課題が浮き彫りになった。国内企業のESG開示については、課題認識は進んでいるものの具体的な方針策定と実行に課題があることが判明した。
東アジア諸国では中国が量から質への転換を進め、韓国や台湾も高機能繊維開発に注力するなど、競争環境の変化が進んでいる。国内企業の収益分析では大手企業の財務体質は健全であり、サステナビリティ対応が収益面で特段のリスクとはならないことが確認された。
総括として、国際競争力維持のためには持続可能な繊維循環戦略の導入議論とサステナブル高機能繊維の開発支援制度が必要である。また、健全な取組促進にはグリーンウォッシュ対策の強化が不可欠であり、国内企業のサステナブル推進にはサプライチェーン監視負担の軽減と繊維産地の活性化支援が重要な課題として提示された。