令和5年度産業経済研究委託事業(職務給・ジョブ型人事制度の導入・運用に関する法的論点の整理、及び法的ガイダンス(案)の作成に関連する調査研究事業)調査報告書
報告書概要
この報告は、職務給・ジョブ型人事制度の導入・運用に関する法的論点について書かれた報告書である。日本の伝統的なメンバーシップ型雇用は、終身雇用を前提とした年功序列型賃金制度であるが、近年、専門性の重視や多様な働き方の実現といった観点から、欧米型のジョブ型人事制度への注目が高まっている。本報告書では、ジョブ型人事制度を「契約タイプ」と「待遇タイプ」に大別して分析している。契約タイプは労働契約上職務が限定される形態であり、待遇タイプは契約上の職務限定はないものの、ジョブディスクリプションの作成や職務給制度の導入により人事管理制度がジョブ単位で構成される形態である。待遇タイプのジョブ型人事制度の運用においては、採用時の労働条件明示、配転命令権の範囲、降格・昇進の有効性、解雇権濫用法理の適用等について、従来のメンバーシップ型雇用とは異なる法的考慮が必要となる。特に配転においては、職務と賃金が連動するため権利濫用審査が厳格化し、整理解雇や能力不足解雇においても解雇回避努力として求められる配転の範囲が限定される可能性がある。メンバーシップ型からジョブ型への制度変更は就業規則の不利益変更に該当し、労働者の同意または変更の合理性が必要であり、労働者の受ける不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉状況を総合考慮して判断される。